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temperance02

 

 

手錠やら縄で拘束される事は無かったが、大人二人がすれ違う程度の余裕は十分にあるが、三人並んで歩くには手狭な廊下を両脇をがっちり固められる形で奥へと案内される。
入り口のクロークと呼ぶには少々貧相なカウンターで、マントや一振りを残して全ての武器を預けさせられ、更にボディチェックもまでもされた。
自分はただでもこの組織を支配する構造には素人同然の門外漢であるのに、対人用に強化こそされているがメス一本で渡り合うのは不可能に近い。
冷静に調度品や建物の構造に目を走らせ、逃走経路くらいは把握しておくかと分析する思考の一方で、他者の支配する中枢へと身一つ、殆ど丸腰の様な状態で入り込む緊張感に肌がピリピリする感覚に一度は治めようとした高揚感がぶり返してくる。

(……本分を忘れないでください、クレア……)

その台詞を聞いてから、時間の感覚が麻痺するような状況下にあっても十分も経過して居ない事だろうが、今さっき言われた言葉でない様な気がしてくる。
体の中に蟠る熱を吐き出す様にゆっくりと深く吐息を吐き出した所で、先導するように歩いていた男が立ち止まり一つの扉の前に立つ。
どうやらここが目的地の様だ。ドアノブを回すと、建物内は外よりは大分涼しい方だが、更に一段とひんやりとした空気がそこから流れ出す。気配から、クレアはそこが地下室だろうと見当を付けたが、奥深く入りすぎては本当に自分が無事ここから帰る事が出来るのか、不安に思わなくてはならないかとチラリと考える。
一応、ここに来るまでにいくつもの保険と根回しをしてきた。だが、それはあくまでも自分が今まで主に相手にしてきた王都の貴族や資産家など体裁を気にせずには居られない者達に通じる流儀だ。この組織のマスターであるリチャード・ロウと名乗るチェイサーは兎も角、この周りを固める男達レベルの身分の者に通用するなどとは考えぬ方が利口だろう。
考えあぐねていた所為で無意識に立ち止まってしまっていた様で、脇を軽く小突かれて我に返り、照れた様な笑みを浮かべてお世辞めいた言葉を男達に返した。

「申し訳ありません。随分と豪奢な建物ですから……つい、ね?」

クスクスと小さく笑いながら小首を傾げると、男達は緊張感の無さに呆れてか、その肝の据わった態度に驚いてか鼻白みお互いの顔を見合わせた後に、この館の主たる男の待つ地下室へと案内すべく扉から続く階段へとクレアを誘導していく。

複数の靴音が石室特有の反響音を感じながら少し長い階段を降りると、悪くすれば牢獄でも待ち構えて居るのでは無いかという予想を裏切り、王都と同じく電気仕掛けのライトに照らされた明るく整然とした部屋が現れる。
綺麗と言いたい所だったが、同業故に感じられる匂いかも知れないが、幾年にも渡ってこびり付いた饐えた淫臭が漂う。嫌悪を感じるかと言えば、我ながらと冷静に窘める思考と相反して心と体は再び自戒とは程遠い高揚感に包まれる。
石壁の地下室は思ったよりも天井が高く、いくつかのテーブルと椅子が今は脇に避けてあるが普段はクレアの持つ店と同じ様に配置されているのだろう。正面に舞台状に一段高くなった場所があった。そこに舞台セットの様な古びた木製の王座と思しき椅子に壮年の男が片足の膝の上にもう片方の足を載せる様な行儀の悪い座り方で座っているのが目に入る。
濡れ羽色の髪をポマードで後ろに引っ詰め、気障に幾許かの前髪を散らした髪型で、軽薄そうな表情でヘラヘラと笑っているが、纏う空気は小さく有りながらも暴力と欲望の支配する王国に君臨するに相応しい禍々しさを秘めていた。
先導していた男が脇に逸れる。そして、リチャードの方ばかりに気を取られて大して見ていなかったが部下なのだろう最初に遭遇した男達と同じ様な風体の冒険者達が両翼にそれぞれ二十人程度が屯する中に混じる。

「よぉこそいらっしゃいました、娼婦の女王サマ」

芝居がかり妙に抑揚の付けられた戯けた調子でそう言ってから椅子からすっと立ち上がり、両脇の男が立ち止まったのを合図に舞台の目の前で立ち止まったクレアの許にリチャードが悠然と歩み寄ってくる。

「都会の蝶がワタクシ如き猿山の王に何の御用で有らせられます?」

向けられる眼光は猛禽類の鋭さを持つ。それも、鷹ではなく老獪な梟の様な思慮深さを伴いながらも狩猟者のそれだ。そんな目で愛想笑いを浮かべるクレアの目の前にリチャードは立ち、これまた芝居がかった動作で腰を折り右手でクレアの右手を指先から掬い上げる様に持ち上げ眼前で指先にちゅっとわざと音を立てて口付けた。
驚きと鋭い眼光から感じる血が沸き立つような心地よい緊張感から、一拍遅れるが凄艶に微笑み、手に取られたのとは逆のもう片方の自らの手を添えて小首を傾げながら尋ね返す。

「アナタも相当意地の悪い方の様ですね。近い内に僕が、アナタの許を訪れるのは分かっていた筈です。僕が蝶ならアナタは蜘蛛の筈ではありませんか?」

流石に緊張も手伝ってか、砂漠地帯を歩んできたのにいつの間にか指先は冷えていた。指に手に感じる男のごつごつとして節くれ立ち、熱いくらいの体温を持った感触は心地よかった。
美人に己の手を握られるのは、満更でも無いらしく一見すれば緩そうに見える男の表情はあからさまに卑しく歪められる。

「さて、オレの許にこんな美人が自分から尋ねてくるなんて、そうそう素敵な約束なんぞしましたかねぇ?」

普通の人間なら、呆れて振り解くような下品な表情で笑ったまま、如何にもとぼけていると分かる様子で、そう嘯く。白く繊細ではあるが武芸者らしく短刀の柄を握る為に部分的に硬質化したクレアの掌を撫でる様に指先を蠢かせる。
しかし、彼の本質を見抜くのなら、呼吸の一つですら気遣わねばならないかと思うくらいの不穏さを漂わせていた。
尤もここで怖じ気づくなら対峙する前から尻尾を巻いて逃げ、今まで築き上げた物を失う愚かさを悔いて細々と生きる方がまだましだ。緊張から悪い癖で細部に至るまで観察するのを辞めて、口を開き慎重に言葉を選びながらも真っ直ぐリチャードを見つめてはっきりとした声音で本題を切り出す。

「茶番はそろそろ終わりにしましょう。取引に参りました。口に出すのも憚られる程、娼館の店主としては情けない事ですが、掠め取られ奴隷市に流された大切な僕の部下をリチャード様、アナタが買い取られたと聞き及び、汗顔ながら恥を忍んで取り戻しに参った次第です」

もう少し茶番を愉しみたかったのだろうか、笑うでもなく落胆するでもなく不意にリチャードと己を呼ばせている男は無表情となる。
その様子に一抹の不安を覚えながらも、食えない様子を見ればいきなり取って食おうと言う気が無いのは確信しつつも、己の予想を上回る権力や能力を持っているとすれば危うい確信だけに肝を冷やしながらも相手の出方を伺う。

「…………あ、あぁ……あの、それはそれは美しい花の元の主はアナタでしたか。オレは売る方で滅多に買う事は無いのですが、ほんの数ヶ月で築かれた物と違い根本から形作られた……単なる調教者では成し得ない物を感じて居りました」

相変わらず、安易に芝居と分かる様子で今記憶の彼方から思い出したと言わんばかりのわざとらしさで何度も頷きながら、また軽薄な笑みを浮かべながら考え込むのに逸らした視線をクレアの深い紫色の瞳に戻した。

「しかし、あのアサシンクロスも美しいが、アナタも同等か別方向とすれば優に超える程美しいですねぇ……」

表面的なもどかしさと、完全に己がペースに飲まれていると分かる現状に流石のクレアも苛立ちと言うより焦燥を感じる。一筋縄では進まないのも分かっているし、男がそちらに求めてくれるならクレアも多少はやりやすくなると考え気持ちを落ち着けようとした。
しかし、久々に感じる小手先では決着の付けられぬ己にとって不利すぎる状況にクレアの中で悪い虫とも言える放埒な性根が疼く。逸脱して全てを投げ打って窮地の底の底まで味わって、いっそこの男に飼われてみたいそんな欲求が燻ってくる。

「お褒め頂き恐悦至極に存じます。それならば、交渉も早く話が付きますでしょうか……代価は出来れば、お金以外で何卒お願いしたく……」

淫欲に濡れた眼でうっとりと見つめながら、両手で包み込んだリチャードの手の甲に頬を擦り寄せて、淡く口付けてから再び頬摺りする。
都の貴族なら、食えない古狸以外はこれだけで堕とす自信があるが、勿論、彼がそうであるなどとクレアも流石思わなかった。

「如何ほど支払ったかは……ここまで辿り着いたのなら、ご存じの筈ですが?」

予想通りの切り返しに今度は困惑した様な表情で見返す。
リチャードの方は相も変わらず軽薄な人を食った笑みを浮かべて、困惑した表情を愉しむようにすぅっと眼を細める。

「存じております。されど、一介の売春宿の店主如きには荷が重すぎます。それにお金で片を付けたとあっては、面子が潰れ揺すり集りの対象になってしまうでしょう?」

我が身を省みる事の少ない彼ではあったが、唯一この世で執着するあの店が潰れるのだけは忍びなく、最悪の状況から少しでも優位になれるようにとしなを作って誘う。
あれだけの大金をあのアサシンクロスを引き取るために払ったのは、間違いなく自分の素性も後ろ盾も把握した上でおびき寄せる為に違いないのに、とぼけた振りをして首を傾いで、己の部下達を見回す。

「タダで返しちまったら、それこそオレらがおまんまの食い上げだよなぁ?」

押し黙ってチェイサー同士の遣り取りに見入っていた柄の悪い彼の部下達が、マスターの言葉にどっと爆笑しだし大きな笑い声を上げた。力で支配しされる者達らしく石室に響めく低く鼓膜が震えている事を感じる事が出来る様な大音声だった。
その様子では、このギルドがクレアの部下を膨大なゼニーで買い取った所で今すぐどうこうなる規模ではないのは察せたが、だからと言ってタダで返してくれる筈もなかった。
最初から目的は自分をなるべく高く売りつけて、その他の代償を少しでも減らす事だ。だが、攻城戦ギルドでもないのにこの人数を擁し、支払った代金を笑いの種に出来る様な組織を一人で築ける男が安易な色仕掛けで堕ちる筈もないと想像するのは容易かった。

「勿論、タダとは申しません。僕の素性……本性、生業はご存じなのでしょう? それを含め……赤い花をお求めになったのではありませんか?」

それを言うと、誰かが茶化す様に口笛を吹く。
ここを支配するのは暴力と欲望。元は男の欲求を満たす為に女を性欲の捌け口として商ってきた事を調査で知っていたが、ニーズに応え男女問わず代価を支払える者が求める物全てを揃えるようになったと聞く。その欲望に従った欲求の中に己が含まれる事に、いけないと思いつつも懲りもせずクレアは興奮に息を呑む。

「……んまぁ、金で払えないなら……カ・ラ・ダで、と言うのはオマエさんの本職としては相応のやり方だろうが……」

するりとクレアの両手から己の手を引き抜き、今息を呑み揺らいだ顎のラインをなぞり、値踏みするように改めて顔、喉元、胸へと指先を下げ、肌の晒された鳩尾の下から臍、腹筋を滑らせ微かに描かれた蛇の鱗が垣間見える下腹部へと辿り着きベルトのバックルで手が止まる。

「……けど、ナァ?」

しばしの沈黙の後に再び取り巻き共に同意を求めるように見渡す。すると、釣られた様子で部下達から再び響めきを伴う笑い声が起きた。
馬鹿げていると一笑に付す様な態度だったが、久々の骨の折れる大仕事を目の前に元来の愚かなまでに貪欲な男娼としての部位が淫欲に濡れる。
試すような指先の動きに反応して震え出す体を御して、クレアも握っていた手を引き抜かれ手持ちぶさただった両手をリチャードのなぞる指先から手の甲へと辿り手首を捕らえて、また眼前にその手を捧げ持ち返した。

「払えぬ金額を賄う……それにすら、不釣り合いでしょうか? 僕では……」

口唇を薄く開き、中指の先端を舌先で舐めてから軽く口に含み、上目遣いに真っ直ぐとリチャードのブラックダイヤの様な不透明でありながらぎらつく目を見返し、すぅっと目を細めて妖しく微笑む。
わざとだろう驚いた様子で目を見開き、それから好色げな笑みを浮かべて片方の口の端だけ上げて歪んだ笑みを刻んでから、腹の底から彼は笑う。

「ハハハッ……偉い自信だな。空の天秤を一気に覆す様な神業でもお持ちか?」

乱暴に手を振り払い今までのソフトなタッチとは一転して、顎に親指を当て無理矢理口を開かせるように引っ掴む。
確かに金額は自分が金策に明け暮れた所で、どれだけかかるかも計算するのが嫌になるような額だ。それを一夜の遊蕩で済まそうとしているのだから、何をされても文句を言える立場にないのは当たり前だし、手荒く扱われる方が分相応であろう。

「……っ……ふ、ふふっ……嘘か、誠か、お試し戴く価値はありませんでしょうか? 試して……値踏みして戴くなら妥当かと思いますが?」

相手の動作から伺える力量から、気変わりした様子で手荒く扱われるのに肝を冷やすが、その緊張感がゾクゾクと寒気を覚える様な興奮を覚え、それを徐々に抑えられなくなっていく。
鼻先に美味そうな餌をちらつかされ本分を忘れてしまいそうになるが、今は敢えてその色を滲ませて濃艶に微笑み、じっと返事を待つように黒い瞳を真っ直ぐ見返した。

「取引に来たんじゃ無かったのか? その合間、合間に見せるイヤらしい顔は……この状況を愉しんでいるのか? 本当にダメな楼主だな」

先程の気変わりは戯れの演技だったのか、ほくそ笑む様に嗤い。掴んだままだった顎を引き寄せこじ開け首を傾けさせると、自らも首を傾ぎ口唇を重ね合わす。
キスするほどに近づけば、男の体臭か甘ったるいタールの匂いがし、やけにざらつく舌先がクレアの舌先を擦り上げると紫煙の苦みが感じられた。
じゅるっとわざと音を立てるようにして彼の唾液を啜り、それを味わう様ににちゃにちゃと掻き混ぜてから、ねちっこい動きとは裏腹にすぐに引き抜いて顎からも手を引いてしまう。

「アンタもヤニ好きか? 随分と、甘い口唇だが……」

己の口唇に乗った二人分の唾液の混ざった物をぺろりと舌先で舐めながら、愉しげに笑い。途中で終わってしまい少し不満げに拗ねた表情を浮かべるクレアの顔を見返した。

「……ぁっ……んっ、煙草を吸う者が、夜伽の相手ではご不満ですか?」

このまま終わってしまうには名残惜しく口元を指先でそっと押さえて、クレアは俯き加減前髪に陰る隙間から上目遣いに見つめるが、乗り気でない様子にも少し身を引き、先程と比べ随分と温度の低い視線でクレアを顔から下へと検分するように眺め。

「いや、ベッドで煙草を吸うヤツは嫌いでないな。寝乱れた後に吸う様は、色っぽくて好きだがね……」

「……では……」

拒絶でない言葉が返ってくると、自分から動いて相手を奮わせなくてはならないかと判断した様子で、四十人以上居るであろう部下達が見守る中でも迷わずに膝を折り、リチャードの前にクレアは跪こうとする。
しかし、その所作に気付いた彼はクレアを止めるように肩を掴む。
不意に止められて少し驚いた様な困った様な表情で、酷薄に笑ったまま何も言わずに見つめる彼を見返してから、真意が掴めないだけに不安げな焦った様子で問う。

「……何か、お気に召さぬ所でも? 試食も断られる程、不味そうでしょうか……」

顔を見つめた後に、言葉や表情から真意が読めぬのならと、掴まれた肩口を見てから視線を自分へと伸びた腕を遡る様にしてリチャードの顔をご機嫌を伺う媚びた目で見つめる。
すると、彼はたっぷりと勿体ぶる間を置いてから、ゆっくりと左右に首を振る。

「いんや、たっぷり……試食と言わず、オマエさんを骨の髄まで、部下達にも鱈腹食わしてやるよ。ただ、な……」

予想の範疇ではあったが、四十人を超える男の相手など滅多に目の当たりにする事は無いし、何年ぶりかの大儀に鳥肌が立つ程の興奮が込み上げる。出来るかと言うよりやらなければならないという事実が更に興奮を強めたが、リチャードの引っかかる言葉に辛うじて理性が繋がれる。

「……ただ? ただ、何でしょうか?」

一度、引き留めるのに強く握られたが、素直に従い緩められた手に再び力が籠もりギュッと痛いくらいに肩を掴まれるのを感じた。
いやでも厭な予感がする。だが、それをまざまざと表情に表すほど、クレアは表情豊かでもなく、心の何処かで無理難題が出される事を心待ちにするような立場を忘れた不埒な気持ちが疼く。

「オレの相手をするのは最後だ」

そう言って、一度軽く引き寄せるようにして、反動を付けて背後にクレアの体を思いっきり押し倒す様に押される。咄嗟の事に反射的に避けようとしたが、先程感じた強者の気配を確信させるような周到さで追撃で足払いを喰らわされる。
無様だと思ったのは一瞬で、それを待っていたとばかりにこぞって部下達が石床に押し倒され強か体を打ち付けられ、すぐに起きられないクレアの体に群がる。

「過ぎた遊びをしすぎたのがいけないのか……新雪の様な真っ新な物でもない限り、熟しすぎてグズグズになった果実の方が旨く感じてねぇ……」

踵を返し、ケラケラと愉しそうに嘲り笑いながら、元居た玉座に名前のない男は戻っていく。これから始まる陵辱劇をたっぷりと愉しむために一番良い見物席に着くつもりなのだろう。

「……流石……名前……が、無い……趣味……まで、はぁく……んぷっ……ぅ……」

ここまで無様に呆気なく押し倒された事にクレアも愉しくなった様だが、獣のように群がった彼の部下達が受け答えする余裕を削いでいく。

<<to be continued>>

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